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東京地方裁判所 平成5年(行ウ)169号 判決 1996年3月28日

原告

エスエムシー株式会社

右代表者代表取締役

高田芳行

右訴訟代理人弁護士

小倉隆志

被告

東京都地方労働委員会

右代表者会長

沖野威

右訴訟代理人弁護士

加藤眞

右指定代理人

神田福治

武藤伸吾

被告補助参加人

関東化学・印刷・一般労働組合エスエムシー支部

右代表者支部長

飯島和弘

右訴訟代理人弁護士

奥川貴弥

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、補助参加によって生じたものも含め、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告が、原告と被告補助参加人との間の平成二年不第六四号事件につき、平成五年四月二〇日付けでした命令を取り消す。

第二  事案の概要

東京都地方労働委員会は、被告補助参加人(以下「参加人支部」という。)が原告(以下「会社」ともいう。)を被申立人として申し立てた都労委平成二年不第六四号事件につき、平成五年四月二〇日付けで別紙の命令(以下「本件命令」という。)を発した。本件は、原告がその取消しを求めた事案である。以下において、月日のみ判示した場合の年は、いずれも平成二年である。

一  前提となる事実(以下の事実は、末尾に証拠を掲記したもの以外は、いずれも当事者間に争いがないか、当事者が明らかに争わない事実である。)

1  当事者

(一) 原告は、肩書地に本社を、埼玉県草加市など一四か所に工場を置き、空気圧機器、自動機器等の製造、販売を主たる業とする会社であり、従業員数は約五〇〇〇名である。原告には、参加人支部が結成されるまでは労働組合は存在しなかった。

(二) 参加人支部は、六月八日午後二時三〇分ころ、草加第一工場に赴き、加藤正男生産統括部長(取締役)(以下「加藤部長」という。)に対し、関東化学・印刷・一般労働組合(以下「関東労組」という。)と連名で、五月二八日に関東労組のエスエムシー支部が設置され、役員として飯島和弘支部長(以下「飯島支部長」という。)ほか一四名が選任されたことを通知した。審問終結時の組合員数は約七〇名であった。(乙五七、六二)

2  支部結成通知後の経過

(一) 関東労組の役員と飯島支部長は、六月八日、加藤部長に、参加人支部の組合結成を通知をした際、関東労組及び参加人支部との連名で、六月一三日を開催希望日として、平成二年度夏期一時金要求など九項目を議題とする団体交渉を申し入れた(甲四、乙一五、一六)。

(二) 六月一二日、原告は、関東労組及び参加人支部に対し、期末決算業務、株主総会準備等が輻湊して日程調整が困難なことを理由に団体交渉開催の延期を申し入れた(甲二、証人加藤正男)。

(三) この後、関東労組及び参加人支部は原告に対し、何度か団体交渉の開催を要求したが、団体交渉は行われないまま推移し、結局この団体交渉申入れに対しては、事務折衝が六月二九日、七月三日、同月二五日及び八月二二日の計四回行われたにとどまった。なお、この事務折衝の原告側の出席者は、加藤部長、広澤武夫製造第一部長(以下「広澤部長」という。)、佐々木好之事務課長(以下「佐々木課長」という。)及び竹内一雄事務課長代理(以下「竹内課長代理」という。)の四名であった。(甲一、乙一七ないし二〇、六二、証人加藤正男)

3  島崎部長の発言

六月一二日午後四時五〇分ころ、島崎仁一購買部長(以下「島崎部長」という。)は、購買部の夕礼において、購買部員約六〇名を集合させ、組合問題について一個人として見解を述べるとの前置きをし、「会社に労働組合がないのは不自然だから、若い人が中心になって組合を結成するよう会社がバックアップしているとの話があるそうだが、そのような事実はない。そんなデマに惑わされないでほしい。エスエムシーに労使という言葉はない。会社と従業員はいつも一体である。労働組合の結成は自由だが、加入するかしないかも各人の自由だ。これまで、会社と話し合うのに組合は必要でなかった。これまで従業員の犠牲の上に立って会社が有利なことを実施したことはなかった。聞くところによると、組合費を三〇〇〇ないし五〇〇〇円毎月納めることになっているとのことだ。年間五万円の見返りに何が得られるのだろうか。組合の内容をよく分からずに加入した人、あるいは加入しようと考えている人、いずれも自由だが、両親や先輩とよく相談して理解を深めて自分の意思で加入すべきかどうか判断していただきたい。加入した人、加入しない人で一切の差別はしないと思う。仲間が加入したからとか、先輩から誘われたとか、仲間はずれにされるなど全て白紙にして慎重に行動してもらいたい。」などと述べた。(甲一〇、乙二四、六三、証人島崎仁一)

4  高橋係長の発言

六月一九日、高橋師徳製造一部六課係長(以下「高橋係長」という。)は、職場内で従業員に組合加入の有無を質して回った。これについて石原敏行副支部長が同日夜抗議したところ、同係長は、会社側はまだ組合を認めていないから不当労働行為にはならない旨を答えた。そして、翌二〇日、同係長は、梱包室において、洗浄薬品の入替作業のために入室していた飯島支部長に対し、「組合のことを聞いているのは自分の考えでやっている。あんたたちだって昼に活動しているではないか。不当労働行為とわかってやっている。部長達がどう考えていようと自分には関係がない。会杜に認めてもらってないから組合でないんだ。組合を作ったからにはそれなりの覚悟はできているだろうな。」などと言った。(乙二八、二九、六三、六四、証人飯島和弘、高橋師徳)

5  本件ビラ配布とそれに対する会社課長らの発言

(一) 参加人支部は、六月二二日ころ、「来る七月三日団体交渉(話合い)が開かれる。」との見出しで、「会社は、労働組合の立場を認め、七月三日に団体交渉を開くことになりました。」と、また、「目に余る不当労働行為(法律で禁止されている)に対し厳しく抗議し反省を求めた。」との見出しで、「支部を結成以来、わたくし達は連合(八〇〇万名)→全化同盟一二万名)→関東労組(一万千名)の指導のもとに秩序ある行動をしてきましたが、中間管理職は、仕事中に一人一人呼びつけ『組合を作る前になぜ相談してくれなかったか』『どうして組合に入ったのか』『組合に入っているので責任ある仕事は与えられない』『今のうちに組合を抜ければ助けてあげる』など目に余る不当労働行為をしてきました。これに対して六月一九日、二〇日の両日、飯島支部長、長沢書記長は関東労組本部の人を交え加藤部長、廣澤部長、佐々木課長に強く抗議し、このようなことをさせないよう要請しました。それでもなお、この様な状況がつづくならば、上部団体の仲間の支援をたのみ、あらゆる対抗手段をとっていきます。また、社長及び行為した者に対し労働委員会(労働組合法違反を処罰するところ)へ不当労働行為で提訴、裁判所へ訴訟をおこすことも考えています。」と、さらに、「釜石に新工場建設、一〇月に移動し大移動が予定されています。」との見出しで、「釜石の3.3万平方メートルの敷地に新工場が建設され、一〇月に稼働の予定になっています。今、職場の中では、誰が行くのか心配でひそひそ話が始まっています。普通の会社では、これほど大規模の工場移転の場合は一年、二年前から移動する人に知らせ家族を含め心の準備、生活の準備をさせています。」などと記載した「エスエムシー支部ニュースNO.2」(以下「本件ビラ」という。)を配布した。(乙五四)

(二) 各部課長らは六月二六日、本件ビラに関して次のように発言した(甲四、乙三一ないし三五、五四、証人竹内一雄、高橋師徳)。

(1) 佐々木課長は、同日の事務課の朝礼において、「組合のニュースが配られたが、あくまで私個人の意見だが団体交渉は行わないだろう。ニュースには釜石への大量の移動があるようなことが書かれていたが、『大量』という表現はおかしい。」などと言った。

(2) 竹内課長代理は、右朝礼において、「今回の組合の行動は私の経験からいっても紳士的ではない。組合を作ったのならその時点で委員長の紹介があってもいいはずなのに、全然なかった。申出がないのにビラを配ったり、勧誘をしたことは他人の家に土足で上がり込んだようなものだ。入る入らないは自由だがもっと紳士的にやるべきだろうが、まあできないからこういう方法を取ったのだろう。事務課の中でも入っている人がいるようだが事務課としての立場を考えてやるべきだろう。昼休みに事務課の人も勧誘に歩いているようだが、私自身の考えとしては、その行動が違反行為でないかもう一度考えて欲しい。」と言った。

(3) 杉山実購買課長は、購買課の朝礼において、「組合のことについて話があります。会社の見解において七月三日の団体交渉は予定していません。ビラの中で釜石に大移動があると書いてあるが大移動はない。」と言った。

(4) 中村正夫製造一部二課長は、午前九時二〇分ころ、第二工場倉庫前において、支部の辻本文彦執行委員に対し、「七月三日の団体交渉は会社側としては約束はしていない。製造一部二課に対しては、課長以上の者が組合に入るなと言ったことはない。釜石に大移動が予定されていると書いてあるがそのようなことはありえない。今回のビラで第二工場の内部が混乱している。」と言った。

(5) 高橋係長は、午前一〇時ころ、同課のパート社員らに対し、「七月三日に行われることになっている団体交渉はただの話合いで会社側は組合を認めていない。」と言った。

6  阿出川、堀江に対する水口主任らの発言等

(一) 事務課主任の水口京子(以下「水口主任」という。)は、六月一八日午後三時ころ、事務課の応接室に事務課課員の堀江恵子(当時参加人支部組合員・以下「堀江」という。)を呼び入れ、同人に対し、「あなたが組合員であるために見せられない書類や頼めない仕事ができてやりづらくなる。事務課としての立場をとるか、組合員としての立場をとるか、それとも事務課・組合員としての立場をとるか。事務課・組合員の立場をとったとき、どちらかの情報がもれてしまった時自分ではなくても、まわりの人は事務課だから組合員だからと見てしまう。そんな時耐えていけるのか。組合活動をしていたということで結婚できなくなる恐れもあるし、会社を退職しても次の就職先を見つけるのは難しい。」などと言った。また、同日午後四時ころから、水口主任は、右応接室に事務課課員の阿出川久美(当時参加人支部執行委員・以下「阿出川」という。)を呼び入れ、同人に対し、「この話合いは私たちの一存でやっている。何で組合に入ったのか。組合なんかやっていたら結婚もできず、孫の代まで迷惑がかかる。警察にもチェックされてしまう。事務課は秘密事項が多いから、組合の仕事を続ければ今までのように仕事を与えられない。私たちがあなたに対する不信感をどう解消してくれるつもりか。今は組合を作る時期ではない。組合、組合・事務課、事務課のどれをとるのか。」などと言った。(乙二五ないし二七)

(二) 当時、堀江は、小口現金出納等の業務を担当していたが、水口主任に、六月二五日、これから交通費関係のみを処理するよう指示されるとともに、伝票金額の合計や伝票と現金との突合わせの業務から外された。また、阿出川は給与計算、勤怠等の業務に従事していたが、同じころ、パート社員らの給与電算処理のためのデータ整理の業務から外され、雑用をやらされるようになった。(乙三〇、六四)

(三) 一一月一日、阿出川は、同月一一日付けで事務課から草加第三工場製造部への配転を内示された。同人は、入社以来七年間勤務した事務課に愛着があり、また、このような異動のされ方はプライドが許さないとして、一一月一五日に会社に退職の意思を伝えた。この際、竹内課長代理は、阿出川に対し「組合を抜けて事務課に残る気はないか。」と尋ねたが、同人は、これを拒否して一一月七日に退職届を会社に提出し、一二月一〇日に退職し、同時に組合も脱退した。(乙五一、六三、証人竹内一雄)

7  組合員の電話取次業務の担当替え

六月二八日、製造一部六課課員の水上千春(参加人支部組合員)(以下「水上」という。)がパート社員あての私用電話を取り次ごうとしたところ、同課の金子武司課長(以下「金子課長」という。)は、水上に対し、「私用電話は取り次ぐなと言っただろう。どうしても取り次がなければならないなら、自分の許可をとれ。自分がいなければ、高橋係長、係長がいなければSの許可をとれ。」と言った。これは、関東労組の岸本友重副書記長からの組合用務の電話を同課長がたまたま取り、私用電話は取り次げないとして取次ぎを拒否した直後のことであった。製造一部六課では、業務の担当ごとに、一番と二番の電話を水上ほか支部組合員一名が、三番と四番の電話を非組合員二名が担当していたが、金子課長は、翌二九日には、右非組合員二名に対し、水上の担当となっている電話機の電話にも全て出るように指示し、水上を電話取次業務から外した。(乙三七、証人金子武司)

8  会社管理職によるアンケート調査紙の回収

(一) 一〇月一九日、関東労組及び参加人支部は、原告に対し、①平成二年年末一時金(支給額、配分、支給期日)に関する件、②草加第二工場移転に関する件を議題とする団体交渉を、一一月一日を開催希望日として申し入れた。これに対して原告は、日程の調整がつかないとの理由で期日の延期を申し入れた。(乙一六)

(二) 参加人支部は、一〇月二四日始業前に草加第二工場正門前で、同工場の従業員に対し、右団体交渉の資料とするため、「工場移転につき何かと心配があると思う。近日中に会社と話し合いをする予定でいる。そのためアンケート調査を行うので協力願いたい。」と記載したアンケート調査紙を配付した。同調査紙には、(1)筑波移転についてどう思うか、(2)現在の遠距離手当二万円は満足か、(3)遠距離手当は最低どれくらいの金額なら満足できるか、(4)筑波に行く場合、通勤時間はどれくらいになるか、(5)通勤できない場合、入寮するか、(6)寮は現在二人部屋だが、満足か、(7)臨時雇の社員は、筑波の従業員への指導が完了後、どこへ配置されるか心配しているか、等の質問事項と回答欄の記載があった。

同日、このアンケート調査紙を見た加藤部長と佐々木課長は、アンケートが、あたかも草加第二工場の全員を異動対象としているかのようであるので無用の混乱・動揺を生じ、また、これが構内に持ち込まれ、勤務時間中に回答記入されるとして、中村正夫製造一部第二課長に指示し、右アンケート調査紙を従業員から回収させた。佐々木課長は、同日、回収したアンケート調査紙約八、九〇枚を参加人支部の長沢久晴書記長(以下「長沢書記長」という。)に返却した。(甲三、乙六三ないし六五)

9  加藤部長の発言

一〇月三〇日、飯島支部長及び長沢書記長が、佐々木課長に団体交渉の日程について質したところ、同課長は、「上の者に聞いて後で連絡する。」と答え、一一月一日、「団体交渉は行わない。『今後事務折衝をやる場合、佐々木君、君がやれば』と加藤部長に言われた。」旨回答した。そして、翌二日、加藤部長は、帰り際の長沢書記長に対し、「佐々木から聞いたか。組合なんかやめろ。あんな程度の低いやつらとはつきあえない。」と言った。(乙六三、六四、証人加藤正男)

10  本件命令

参加人支部は、一二月一日、原告を被申立人として、被告に対し、①原告は参加人支部及びその組合員を誹謗・報復・威嚇する言論をし又組合員に対し組合員であることを理由に嫌がらせ及び組合の脱退を勧奨してはならないこと、②原告は参加人支部がビラ配布・アンケート調査等をするのを妨害してはならないこと及び③陳謝文を掲示することを求めて救済申立をした(都労委平成二年不第六四号事件)。被告は平成五年四月二〇日付けで別紙のとおりの本件命令を発し、同命令書は、同年六月三日、原告に送達された。

二  争点

1  関東労組が労働組合法二条本文の「団体またはその連合団体」に該当するか。

2  参加人支部が団体としての独立性を有するか。

3  前記「前提となる事実」のうち、原告会社の管理職らによる各言動等が労働組合法七条三号の支配介入に該当するか。

三  当事者の主張

(被告)

被告の認定事実及び判断は、別紙の本件命令書記載のとおりであり、本件命令に誤りはない。

(原告)

1 混合組合としての関東労組

参加人支部の上部団体と称する関東労組は、いわゆる混合組合であって、労働組合法二条本文にいう「団体またはその連合体」に該当しない。したがって、下部団体たる参加人支部もまた労働組合法上の労働組合ではない。「その連合体」の中に混合組合も含まれるとするのは、罪刑法定主義を無視した違法な解釈である。

2 参加人支部の団体としての独立性

参加人支部はいかなる意味でも独立した団体ではない。①参加人支部は、独立して行動したことがなく、全ての事務打ち合わせにおいて上部団体たる関東労組のみが発言し、就中七月三日の事務打ち合わせでは、関東労組は、参加人支部が独立性を有しないと原告に説明している。②財政状態を示す会計帳簿等は一切存在しない。また、平成二年一二月ころまでは、組合費すら徴収しておらず、関東労組の金銭支援に頼っており、財政的にも独立していない。③参加人支部の規約なるものは、関東労組が一方的に作成した「参加人支部規約準則」なるものを参加人支部にそっくりそのまま押し付けたに過ぎず、このようなものは、そもそも独立した規約の名に値しない。かりに規約に独立性があるとしても、直ちに組織の実体までが独立していることにはならない。

3 本件命令が不当労働行為と認定した各言動

(一) 六月一二日の島崎部長の発言について

島崎部長の発言の動機は次のとおりである。すなわち、同部長は、部下から、参加人支部が、「(原告に)労働組合がないのは不自然だから、若い人が中心になって組合を結成するよう会社が裏でバックアップしている」と部員に申し向けて、参加人支部への加入を勧誘しているとの報告を受けた。しかし、右バックアップの事実は存在しないので、同部長は、部員が右のような虚言にまどわされないよう注意するつもりで発言したもので、他意はない。発言内容は、右件について「そんな事実はありません。そんなデマに惑わされないで欲しい。」と冒頭に述べ、後は部長の個人的見解として「労働組合の結成は憲法で保障されている。結成は自由だが、加入するかしないかも、各人の自由である。」とか「加入した人と加入しない人で一切の差別はしないと思います。」等を中心として発言したものである。いずれも常識的なものばかりである。本件命令の事実認定は、島崎部長の発言の一部のみを取り上げている。

(二) 六月二〇日の高橋係長の発言について

高橋係長は、飯島支部長らが、多勢をかりて、同係長に対して「今にユニオンショップ協定ができたらお前なんか会社を首にしてやる。」と脅かしたので、売り言葉に買い言葉として本件発言をなしたものである。

(三) 本件ビラ配布とそれに対する会社課長らの発言について

本件ビラには、六月八日の組合結成通告の日に、七月三日に事務打ち合わせが開催されることが決定されたとの記載があるが、その事実はないし、本件命令が認定するような七月三日に団体交渉が開催されるとの参加人支部が希望的予測をする根拠はない。また、本件ビラに記載された中間管理職の発言は虚構であり、従業員大移動の計画は全くなかった。本件ビラは、右のように事実に反する点が少なくなく、かつ従業員の不安、動揺を引き起こすものである。本件課長らの発言は、右のビラの記載をみて、事実無根であることを釈明するとともに、批判的発言をしているにすぎない。

(四) 阿出川、堀江に対する水口主任の発言等

(1) 阿出川、堀江の所属した事務課の業務は、人事、給与等いわゆる労務管理全般を担当するから、管理部門の中枢をなす。加えて、事務課は原告取締役室に隣接し、数人の取締役の秘書的役割も担当する。それゆえ、処理する業務には秘密事項も多い。したがって、事務課は、全体として労組法二条一号にいう「使用者の利益を代表する」機能を有しており、従業員は、自分で秘密事項を担当処理するはもとよりのこと、担当外の秘密事項も見聞し得るので、「使用者の利益を代表する者」である。

(2) 原告は、佐々木課長を通じて、阿出川、堀江の業務から「機密事項」を外すことを水口主任に命じたが、組合からの脱退を求めることまでは命じていない。水口主任は、課員である古川や織田と話し合った結果、仕事のやりにくさを解消するためには、「機密事項」を外すだけでは不十分で、その前に友人として皆で一緒に脱退を説得するに如くはないということになり、前記「前提となる事実」6(一)のとおりの説得に及んだもので、右発言は原告の指示によるものではなく、水口主任らが個人の資格でなしたものである。

(3) 阿出川の配転は、業務改善により、同人の担当業務が不要となる一方、草加第三工場製造部で女子事務員の欠員補充が必要であったため行われたものである。右製造部は、事務課から約三〇〇メートルくらい離れたところにあるから、労働条件について阿出川に対する「不利益扱」にならないのはもとより、参加人支部に対する「支配介入」にもならない。竹内課長代理が阿出川に対し、「組合を抜けて事務課に残る気はないか」と尋ねたのは、阿出川が退職の意思を竹内課長代理に伝えた際、自分は一生懸命組合のために尽くしてきたにもかかわらず自分の仕事外しや配転について、組合にいくらいっても取り上げてくれなかった、それが心外であると涙ながらに述べたので、竹内課長代理は、阿出川が組合加入行為を後悔しているようにも受け取り、同情の念からつい右発言に及んだものである。

(五) 組合員の電話取次業務について

これは、就業時間中の電話取次のことであって、誰に取り次がせようがそれは原告の業務運営上の専権である。まして私用電話となればなおさらのことである。従って、そもそも妨害といったことは成り立たない。従業員が就業時間中に勝手に私用電話をかけたり、かけられて応対するようでは、生産秩序が成り立たない。本件命令は、原告が従来短時間の私用電話は黙認していたとするが、これは明白な事実誤認である。

(六) 会社管理職によるアンケート調査紙の回収について

参加人支部組合員と称する人たちが出勤時刻に工場入口近辺でアンケート調査紙を配布したというのが行為の実態であるが、受け取った従業員は、工場内に入ってからこれを読みかつアンケートに答を記入する。これは、原告に無断で工場内でアンケート調査紙を配布するのと実質的に何ら異なるところがない。したがって、配布者が原告の職場秩序を乱しているとはいえても、原告がアンケート調査を妨害したとの理屈は成り立たない。まして調査事項は、草加第二工場の従業員全員の筑波工場への移転という虚偽の大事件を問題とするものである。したがって、アンケート調査紙を作成するに当たっては、かかる移動計画の有無を原告に確かめるべきであり、配布についても、あらかじめ原告の許可を求めるのが正常な労使関係のルールにかなうものである。然るに参加人支部は、これについて確かめもせず、許可も求めず、唐突に配布した。このように、参加人支部の行為は労組法七条一号所定の「労働組合の正当な行為」に該当しないことが明らかである。

(七) 加藤部長の発言について

加藤部長の本件程度の発言を労働組合の組織運営に対する支配介入だとするのは行き過ぎである。そもそも労働組合法七条三号の支配介入行為とは、罪刑法定主義からして、労働組合の組織運営に具体的に支障を及ぼす程度のものに限るというべきであり、右発言はその内容からして、労働組合の組織運営に具体的に影響を及ぼす程度のものではない。また、右発言中の「組合なんか」の「組合」とは関東労組のことであり、「あんな程度の低いやつら」の「やつら」とは関東労組の組合員のことである。関東労組が虚偽の事実を流布して従業員の不安、動揺を引き起こしたことは、明白であるから、右発言はむしろ的を射たもので、誹謗中傷には当たらない。のみならず、右発言は害悪の告知を伴わないから、相手方に心理的にもなんらの影響を与えず、冗談と解すべきである。

第三  争点に対する判断

一  関東労組が労働組合法二条本文にいう「団体又はその連合団体」に当たるか。

1  関東労組は、昭和五一年三月一日に関東化学・印刷・一般労働組合綱領・規約を施行したが、同規約には、四条で「本組合は、主たる事業所が関東地方に所在する化学・印刷・一般等中小企業に従事する労働者及び労働組合をもって組織する。」と、五条で「本組合は、各企業または事業所ごとに支部を設置する。」と規定されており、同条に基づいて設置された参加人支部の作成した規約には、二条本文で「この支部は、関東化学・印刷・一般労働組合規約五条にしたがって、会社の従業員、またはこれに準ずるもののうち、関東化学・印刷・一般労働組合の組合員をもって組織する。」と規定されており、関東労組は、個人加入と団体加入のいずれも認める、いわゆる混合組合(合同労組)であることが明らかである(乙五五)。

2  証拠(乙五四、六二、六六)によれば、関東労組は、約一万二〇〇〇名の組合員を擁し、法人格を有する労働組合であるが、上部の連合団体である全化同盟(組織人員約一二万名)、及びさらに上部の連合団体である連合(組織人員約八〇〇万名)に加盟しており、その傘下の組合として、労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ること等を目的として労働組合活動を行っていることが認められる。これによれば、関東労組は、労働組合法五条二項所定の規約を有し、組織的・経済的に使用者の支配干渉を受けることなく、労働者が主体となって自主的に組織した労働組合であることが明らかであり、同法二条の規定にも適合しているということができる。

3  そうすると、関東労組が個人加入と団体加入のいずれも認める混合組合であるからといって、格別の弊害があるとも考えられず、同労組は、労働組合法二条本文にいう「団体又はその連合団体」に当たるものと解すべきである。

二  参加人支部が団体としての独立性を有するか。

1  参加人支部の規約、組織について、以下の事実が認められる。

(一) 前記に認定判断したとおり、参加人支部は、関東労組の綱領・規約五条に基づいてその下部組織として結成された労働組合であり、その規約は、支部の目的及び事業、組合員の権利・義務、機関、役員、統制、会計等について具体的に規定し、労働組合法五条二項の規定に適合している(乙五五)。

(二) 参加人支部の規約三条には、参加人支部は、関東労組の綱領・規約、宣言、主張及び決議のもとに、支部員の生活と社会的地位の向上をはかり、相互の連帯性を強化することを目的とするものと定められており、同規約四条には、参加人支部は、(1)労働生活条件の維持改善向上に関すること、(2)労働協約の締結改善及び普及徹底に関すること等の事業を行うものと定められ、同規約五条には、右(1)の事業のうち重要な事項、(2)の事業及び(3)争議行為については関東労組の指示に基づいて行うものと定められ、また、同規約三二条には、支部員の権利の一時停止及び除名は大会の決議に基づき関東労組の承認を得るか、または関東労組の大会又は中央執行委員会の議を経て直接行うものと定められているほか、同規約一一条以下には、支部の事業報告、運動方針、予算及び決算を大会に付議し、所定の組織・権限をもって活動するものと定められている。

(三) 参加人支部は、五月二八日、原告会社の草加第一、第二、第三工場所属の従業員によって結成され、組合員数は、結成当時は二五名であり、最多時には約三一〇名を数えたこともあったが、平成三年四月二四日頃には、約七〇名に減少した。支部の結成当初の役員は、支部長が飯島和弘(製造第一部六課所属)、副支部長が石原敏行(同一部同課所属)、大場亮(同部同課所属)、内田勇(製造第一部二課所属)、書記長が長沢久晴(製造第一部六課所属)、会計が大串繁(同部同課所属)、会計監査が山田、坂岸、執行委員が鈴木明(製造第一部一課所属)、金子、辻本、市原、小林、阿出川(事務課所属)であり、事務折衝に出席した組合員として大曽根、中山、堀江、新井、小野田、堀江(事務課所属)、八角、古谷がいた。(乙一七ないし二〇、五四、五七、六二)

(四) また、参加人支部の会計の状況については、同支部の規約三四条には、「支部の経費は、組合費、臨時組合費、寄付金その他の収入をもってまかなう。但し、寄付金の受領については執行委員会の議を経なければならない。」と、同三五条には、「組合費は、一か月正支部員一名につき(基本給月額の二パーセントプラス本部費)とする。準支部員は一か月一名につき基準月額の一パーセントプラス本部費とする。前項の基準月額は、契約時間単価に契約時間を乗じたものに二〇を乗じたものとする。」と、三七条には、「会計は、常時財産目録及び会計帳簿を整備し、支部員はいつでも閲覧することができる。」とそれぞれ定められている。参加人支部は、六月二二日頃配付したビラ(支部ニュース)で、「皆さんからの組合費は、組合運営のための大切な財源です。」との見出しで、「支部の組合費の基準は、一三八〇円(本部費)+基本給(本給+勤務給)の二パーセントです。本部費一三八〇円というのは、支部から関東労組へ、関東労組から全化同盟へ、全化同盟から連合へと納め、わたくしたちを指導するための費用、色々の情報とか新聞を作って組合員に知らせるために使う費用です。基本給の二パーセント分は、支部内部で組合活動をするための費用(組合活動したときの賃金補償、大会を開いたときの費用、各種会議費用、支部の新聞、研修会費、青年婦人活動、レクレイション費等)に使われるものです。」と記載し、その使途について説明していた。そして、六月八日要求事項には、組合費の天引きについても含まれていたため、原告会社は、同月二九日の第一回事務折衝において、「組合員の人数が分からなければ、組合費の天引きはできない。」旨表明した。そこで、参加人支部は、結成当初、組織力が弱いために規約どおりの組合費の徴収がままならず、参加人関東労組からの財政的支援及び支部役員が各自一か月三〇〇〇円ずつ拠出して支部の財源としていたが、一二月一日、一般組合員に対しても、社員・準社員については一か月二〇〇〇円、パートについては一〇〇〇円の組合費を納入するよう呼びかけるビラを配付した。(乙一五ないし一七、五三ないし五五、六二)

2 右に認定した参加人支部の規約の存在・内容、組織及び会計の状況、及び前記「前提となる事実」に認定した同支部の活動状況に照らせば、同支部は、争議行為等一部の重要な活動や組織統制について関東労組の指示に服する面はあり、また、組合費納入状況や財産目録、会計帳簿の存在・記載については明らかとならないが、なお、労働組合法上具備すべき要件を満たす自らの規約を有し、別個に代表者・役員を定め、決議機関・執行機関等を有するなど、労働組合としての組織の自主性及び財政の独立性を保ち、独自の活動を行っていたものといってよい。

原告は、参加人支部の規約が関東労組の支部規約準則そのままであることや、原告会社に対する団体交渉申入れに参加人関東労組の副書記長らが関与したこと等をもって、参加人支部には独立性がないと主張するが、右認定事実によれば、参加人支部の組合員らは、関東労組の支部規約準則を自らの規約として承認・制定したものということができ、また、支部規約上、労働協約の締結には、関東労組の指示を得ることが必要であるとされているのであるから、参加人支部が結成後間もなく、かつ、同支部が行う団体交渉が円滑に進まない本件事情のもとにおいては、上部組織である関東労組の役員が関与したからといって、参加人支部に独立性がないということはできない。

3  原告は、労働委員会が労働組合の資格審査について併行審査主義をとっていることをもって違法であると主張するが、右資格要件は、不当労働行為の救済命令を発するための要件であって、審査手続に入るための要件ではないと解すべきであるから、右主張は採用することができない。

三  原告会社の管理職らによる各言動等が支配介入に該当するか。

1  本件各言動等の背景

(一) 前記「前提となる事実」及び次に各掲記の証拠によれば、以下の事実が認められる。

(1) 加藤部長は、六月八日に参加人支部の結成通知等を受けた際、飯島支部長らに組合員名簿の提出を要求したが拒否され、同日午後四時過ぎ、帰社した三上真常務取締役(以下「三上取締役」という。)に右顛末を報告した。三上取締役及び加藤部長は、本田都彦生産技術部長(取締役)、広澤部長、島崎部長、佐々木課長、竹内課長代理らを集め、組合結成通知があったことを報告し、今後の対応について協議検討した結果、組合加入者は少数と判断するとともに、加入者が少数ならば従業員の過半数が加入しているような組合と同一に扱わなくても良いのではないかとの結論に達し、次の定例工場部課長会で三上取締役から各部課長に、組合加入状況の把握をするように指示することにした。その後、加藤部長は、本社の総務部長に電話で組合結成の件を報告し相談したところ、同部長から、工場以外に組合員がいないようなので、対応は工場で行うようにとの指示を受け、他方、団体交渉申入れに対しては期末決算、株主総会等が輻湊して日程調整が困難だとして延期の申入れをすることとし、その旨の回答書は本社で起案し、社長名で出すことになった。(甲四、乙六五、証人加藤正男)

(2) 六月一一日、島崎部長は、同部の課長らを集めて組合加入状況の調査を指示したところ、同日三時ころ、黒沢敬明課長から、組合役員が、会社が組合をバックアップしていると言って組合員を勧誘しているとの報告を受けた。

同日午後四時開催の定例工場部課長会で、三上取締役は、各部課長に対し、組合結成の通知及び団体交渉の申入れがあったが、団体交渉の延期を申し入れることにしている旨報告し、組合員名簿の提出がないので各自の部署の従業員の組合加入状況の把握に努め、至急報告するようにと指示した。その際、金子課長より、自分の課には組合幹部が多数いるので、就業時間中に上部団体との電話の授受があると思うがどう扱うかとの質問があり、三上取締役は、組合用務のための電話は禁止することを指示した。また、島崎部長より、会社が組合をバックアップしていると言って組合員を勧誘している者がいるがどうすべきかとの質問があり、三上取締役は、従業員に誤解を与えることになりかねないので、翌日従業員にそのような事実はないことを説明するように指示した。(甲四、証人竹内一雄、島崎仁一)

(3) 同日午後五時ころ、右定例部課長会から製造第一部六課に戻った金子課長は、同課の高橋係長らに、組合が結成されたことなどを伝達し、至急課内の従業員の加入状況を調査するよう指示した。右指示に従って、翌一二日から、高橋係長らは課内の従業員に組合加入の有無を確認して回ったが、従業員はどちらとも返事をしなかった。高橋係長は、従業員の右態度からして、課内のほとんどの従業員が組合に加入しているのではないかと判断し、その旨金子課長に報告した。(証人高橋師徳、甲一二)

(4) 六月一四日までには、全部の職場の部課長らから加藤部長に、組合加入状況についての報告がなされた。その内容によると、製造第一部六課以外は組合員の数は少ないのではないかと判断された。そこで、加藤部長は、部課長らと検討の結果、①参加人支部に組合としての独立性があるかどうかが現状では分からないし、②組合員数が少なく、従業員に占める組合員数の比率が低いから、そのような組合と労働条件について協定を結んでも仕方がないという二つの理由で、団体交渉をせず、単に話合いの機会を持つこととしたうえで、参加人支部の要求を参考意見として聞きおく程度にとどめることにした。そして、六月一八日午後四時開催の臨時工場部課長会で、三上取締役は、右加入状況の把握結果及び七月三日には団体交渉ではなく話合いをすることにしたことを報告するとともに、引き続き加入状況の把握に努め、変化があれば至急報告することを指示した。(甲四、乙六五)

(5) この後、前記のとおり、団体交渉は行われないまま推移し、事務折衝が六月二九日、七月三日、同月二五日及び八月二二日の計四回行われたにとどまったが、右事務折衝においては、原告側は、関東労組の組織及び関東労組と参加人支部との関係等について質問するとともに、関東労組や参加人支部についてよく理解できず、現段階においては組合を容認していないので、事務折衝をして理解したうえで団体交渉に持っていきたいと主張して、団体交渉を実施する意思がないことを表明し、他方、関東労組及び参加人支部の各申し入れ事項に対しては、結論のみの簡単な回答をしたにとどまった。そこで、関東労組及び参加人支部は、原告に対して団体交渉の実施を求めるとともに、係長、班長などによる組合員の探索や脱退勧誘などの不当労働行為をしないよう申し入れた。(甲一、乙一七ないし二〇、六二、証人加藤正男)

(二)  右認定事実によれば、原告は、三上取締役や加藤部長らが、六月八日に参加人支部の組合結成通知を受けた後、定例ないし臨時に開催された工場部課長会を通じて、草加工場地区の管理職らに組合加入状況の調査をさせた結果、参加人支部の組合員の割合が少なく、組合の実態が理解できないことなどを理由に、団体交渉には応じず、事務折衝の名目で、意見を聞きおく機会を持つ程度に止めようとの方針を固め、右工場部課長会等を通じて、管理職らに右方針を周知徹底させていたものとみることができ、前記二のとおり、参加人支部は関東労組の支部として独立性を有する労働組合であるにもかかわらず、これを徒らに疑問視し、組合としての存在を否定する態度をとっていたことが認められる。

2  六月一二日の島崎部長の発言

原告は、六月一二日の島崎部長の発言は、従業員が虚言に惑わされないよう注意するとともに、島崎部長の個人的見解を述べたにすぎない旨主張する。しかし、前記「前提となる事実」3の島崎部長の発言は、右1(一)(2)に認定のとおり、原告の役員の指示により、勤務時間中、購買部の夕礼という公式な場で、同部の最上級管理職としての立場からなされたものであって、個人的な意見の表明とは到底認められない。右の状況のもとにおいては、一個人として見解を述べるとの前置きがあったからといって、従業員がこれを純然たる私的発言に過ぎないと受けとることがないことは容易に認識しえたものということができる。そして、右1(二)に認定判断した事情に照らしてみると、同部長の発言内容は、従業員に対し、虚言に惑わされないようにと注意するにとどまらず、原告は組合を歓迎していないし、原告に組合は不要であり、組合加入者に再考を促す旨の発言であり、組合の結成を非難し、従業員の組合加入を抑止する内容の発言として組合の組織運営に対する支配介入に該当するというべきである。

3  六月二〇日の高橋係長の発言

前記2(一)(3)に認定のとおり、高橋係長は、原告の役員の意向を受けた金子課長の指示で、職場内で従業員に組合加入の有無を質して回っていたもので、前記「前提となる事実」4の高橋係長の六月二〇日における発言は、上司の指示による組合加入状況調査を貫徹しようとして、原告の意を体してなされたものというべきである。そして、会社が従業員のうち誰が組合員であるかを知ろうとすることは、それ自体として禁止されているものではないが、組合加入が判明することによって具体的な不利益が生ずることをうかがわせるような状況の下で、会社が組合員に動揺を与えることを目的として組合加入について調査することは許されないものである。高橋係長の右発言は、組合を否認し、組合員であることを理由とする不利益取扱いを示唆する威嚇的な発言であり、組合の組織運営に対する支配介入に該当することは明らかである。

なお、原告は、高橋係長は飯島支部長らに脅かされたので、売り言葉に買い言葉として本件発言をなした旨主張し、高橋係長はその旨証言するが、右証言は飯島支部長の証言に照らして、たやすく信用できないばかりでなく、かりに飯島支部長からユニオンショップ協定云々の発言があったとしても、高橋係長の一連の行動に鑑みると、高橋係長の発言が一事的感情に基づく反発に過ぎないものであったと認めることはできない。

4  本件ビラ配布とそれに対する会社課長らの発言

(一)  前記「前提となる事実」5の会社課長らの発言については証拠(甲四、一二、証人竹内一雄)によれば、六月二五日午後四時開催の定例部課長会において、三上取締役が、本件ビラの記載内容について、①七月三日に実施されるのは団体交渉ではなく、話合いである、②釜石工場への大異動はなく、異動者は管理職を含めて八名であり、既に本人に内示し本人も了解済みであると説明したうえ、早急に、各部課の従業員にこのことを説明するよう指示し、これに基づいて金子課長が、六月二六日始業直後、高橋係長に、課員に対して右二点を説明するように指示したことを認めることができ、右事実と前記1ないし3の三上取締役を中心とする原告の参加人支部に対する否定的態度を総合すれば、右各発言が三上取締役の指示に基づくものであり、原告会社の意を体したものであることは否定できないところであり、右各発言は、三上取締役の右指示に基づいて、各管理職が、朝礼等において、管理職の立場から従業員に対し、原告が参加人支部と団体交渉をしない旨告げるものであり、組合を否認し少なくとも軽視し、交渉相手として認めないとする会社の方針を従業員に告知し、従業員の組合加入を抑止しようとする意図のものになされた一連の発言であると認められる。したがって、右各発言は、組合の組織運営に対する支配介入に該当する。

(二) 原告は、本件ビラは事実に反する点が少なくなく、かつ、従業員の不安、動揺を引き起こすものであるので、本件ビラに関する各発言は、本件ビラの記載が事実無根であることを釈明するとともに、それに対する批判を内容としているにすぎないと主張する。しかし、本件ビラ配布当時、七月三日開催予定の原告と関東労組及び参加人支部との会合の性格について、原告側は「話合い」であると主張していたが、関東労組及び参加人支部は団体交渉であると主張し、両者の間でそれ以上の詰めはなされていなかったこと(証人加藤正男)、本件ビラには「来る七月三日団体交渉(話合い)が開かれる」との見出し記載があって、会合の性格付けに立場による相違があることを示していること(乙五四)、平成元年一二月、釜石に新工場を建設し、地元から従業員を採用し、翌年一〇月から操業の予定であることがマスコミに公表されたが、その約半年前には、加藤部長から従業員に対して将来異動がある旨の話があり、また、飯島支部長らが加藤部長に組合結成通知を渡した際、加藤部長から草加地区の工場はいずれなくしたいとの話があったこと(甲一三、証人加藤正男、飯島和弘)からすれば、本件ビラの記載内容が七月三日の会合の性格及び一〇月の大異動について参加人支部の立場からみた情宣活動として許容されないものではないのであって、その記載の誤りを釈明・批判する必要があるからといって、その限度を超えた支配介入行為が不問とされる理由はない。

5  阿出川、堀江に対する水口主任らの発言等

(一) 原告は、事務課の所属員全員が「使用者の利益を代表する者」である旨主張する。しかし、労働組合法二条一号所定の「使用者の利益を代表する者」に該当するか否かは、事務課の所属員であるということから一義的に決まるものではなく、個々の担当職務等によって、その者の加入によって労働組合の自主性が損なわれるかどうかを基準として個別に検討する必要があるところ、堀江、阿出川の当時の担当職務は、前記「前提となる事実」6(二)に認定のとおり、直接人事等に関する決定権を有しないことはもとより、職務として会社の労働関係の計画・方針に関する機密事項に接する立場にもないから、両名は「使用者の利益を代表する者」には該当しない。このことは、竹内課長代理が、堀江や阿出川の担当職務のうち、郵便物の振分け等が機密事項に該当するなどと見当はずれの証言をしていることや、堀江や阿出川が実際に外された職務の内容が、小口伝票の伝票金額の合計や伝票と現金との突合わせ、パート社員等の給与電算処理のためのデータ整理などであって、およそ労働組合法二条一号所定の機密事項とは認められないものであることなどからも明らかである。

(二) 原告は、前記「前提となる事実」6(一)に認定の水口主任の発言について、佐々木課長を通じて、堀江及び阿出川の職務から「機密事項」を外すことを水口主任に命じたが、組合からの脱退強要を命じたことはなく、水口主任は個人の資格で発言したものである旨主張し、佐々木課長の都労委における供述(乙六五)には右主張に沿う部分がある。しかし、佐々木課長は、事務課の従業員には組合に入って欲しくないとの加藤部長らの意を受けて、六月中旬、事務課の水口主任らに対し、事務課は機密事項が多い、組合員に機密事項を担当させることはできないと説明し、堀江と阿出川を機密事項の担当から外すよう指示したことが認められるのであって(甲四、五、一一、乙六五、証人加藤正男、竹内一雄)、機密事項に関する竹内課長代理の理解が前記のとおりであることや、水口主任が、佐々木課長から右説明・指示を受けた直後に、勤務時間中に堀江及び阿出川を応接室に個別に呼び入れ、両名に組合からの脱退を強要したこと、そして、両名が組合を脱退しないとみるや、両名の仕事の一部を外していることからすれば、水口主任は単に仕事外しを指示されたに過ぎないものとみるのは不自然であり、右脱退強要が佐々木課長の意向に基づいてなされたものと認められ、佐々木課長の右供述は信用できない。

(三) 原告は、阿出川の配転理由は業務上の必要性によるものである旨主張するが、加藤部長及び竹内課長代理は、原告が阿出川を配転したのは、同人が組合員であることから同人を事務課に勤務させたくなかったためであることを明確に証言しており、原告の右主張は採用できない。

(四) そして、原告は、水口主任らを通じて、堀江及び阿出川に対して組合からの脱退を迫り、両名が組合を脱退しないとみるや、両名の仕事の一部を外し、さらに阿出川に対しては草加第三工場製造部への配転を命じ、その結果、両名は組合を脱退するに至ったものであって、原告の行ったこれら一連の行為は、堀江及び阿出川に対する明白な脱退強要であり、組合の組織運営に対する支配介入に当たることは明らかである。

6  組合員の電話取次業務の担当替え

前記「前提となる事実」7に認定の水上に対する電話受信・取次業務の担当替えの措置は、前記三1(一)(2)の認定事実に照すと、水上が組合員であるという理由で、もっぱら組合用務の私用電話を禁ずるために、水上からそれまで同人が担当していた電話の受信・取次業務を外したものであって、従業員が私用電話を取り次ぐことを禁止する趣旨から出たものではないから、原告の水上に対する右措置は、組合員であることを理由とする嫌がらせというほかなく、組合の組織運営に対する支配介入と認められる。

7  会社管理職によるアンケート調査紙の回収

(一) 前記「前提となる事実」8に認定のアンケート調査は、就業時間外に社外で行われたものであって、その内容も組合が一〇月一九日に開催を申し入れていた団体交渉の議題に関する資料となるべきものであるから、正当な組合活動と認められる。アンケート調査紙を受け取った従業員が就業時間内に社内でこれを読み、記入する可能性があるからといって、それを組合が求めたわけではなく(そのような事実を認めるに足りる証拠はない。)、休憩時間あるいは終業後に作成を期待することはなんらさしつかえないのであるから、組合のアンケート調査紙配布行為を不当ということができないのは当然である。

(二) 原告は、アンケート調査の内容である草加第二工場の筑波への移転が事実に反するものであるとも主張するが、右移転については、前記認定のとおり、組合結成の一年前に加藤部長が従業員に対してその可能性を示唆し、また、八月二二日には原告と組合との間で行われた事前折衝において、「九月よりシリンダーの一部が稼働するが、現在シリンダー関係の生産が間に合わないため在庫づくりが思うようにできない。受注対応でいっぱいである。工場移転もいつになるか見通しがつかない。異動する際の待遇は考えている。」と発言し(乙二〇)、原告自身がその可能性に触れているのであるから、組合が工場移転について危惧するのは自然の成行きであり、その真偽等の確認のために団体交渉を要求し、その準備として従業員にアンケート調査をした点に非難されるべき行き過ぎがあったものともいえない。また、アンケートの内容も、工場移転についてどう思うかという程度であって、いたずらに従業員の不安をあおるものではなく、本件アンケート調査紙の配布は正当な組合活動である。したがって、原告管理職による本件アンケート調査紙の回収は、正当な組合活動を妨害する行為であって、組合の組織運営に対する支配介入と認められる。

8  一一月二日の加藤部長の発言

前記「前提となる事実」9に認定の加藤部長の発言は、同人が部長職にあるとともに、事務折衝のメンバーであって、組合と利害の対立する立場にあり、その発言の時期や内容からしても、単なる個人的意見の表明や冗談であると評価できるものではない。

そして、加藤部長の右発言は、関東労組及び参加人支部を誹謗し、組合から脱退するよう強要するものであり、組合の組織運営に対する支配介入であることは明らかである。

9 よって、参加人支部結成以後の原告管理職らの言動、組合員の仕事外し、配転命令、電話取次業務の妨害、アンケート調査妨害を不当労働行為に該当するとした本件命令の認定及び判断は、正当である。なお、本件命令の主文2項は、原告に対し、ポストノーティスを命じているが、憲法二一条は、思想・信条・意見の表出活動の自由について規定しているのであり、ポストノーティスは、右の自由をなんら侵害するものではないから、憲法二一条に反しない。本件命令主文2項の記①②③の各行為が不当労働行為と認定されたこと及び今後このような行為を繰り返さないように留意することを記載した文書の掲示を命じた本件命令は、労働委員会によって原告の行為が不当労働行為と認定されたことを関係者に周知徹底させ、同種行為を繰り返さない旨の約束を強調する意味を有するに過ぎず、原告のいわば消極的な表現の自由を侵害するものでもなく、同種行為の再発を防止するための相当な措置であると認められ、労働委員会に委ねられた裁量の範囲内にあるというべきである。

四  結論

よって、本件命令の認定及び判断には、原告の主張するような違法はないというべきであるから、原告の本訴請求は理由がない。

(裁判長裁判官遠藤賢治 裁判官白石史子 裁判官片田信宏)

命令書

埼玉県草加市稲荷六丁目一九番一号

申立人 関東化学・印刷・一般労働組合エスエムシー支部

支部長 飯島和弘

東京都港区新橋一丁目一六番四号

被申立人 エスエムシー株式会社

代表取締役 高田芳行

上記当事者間の都労委平成二年不第六四号事件について、当委員会は、平成五年四月六日第一一〇〇回公益委員会議を経て、同月二〇日第一一〇一回公益委員会議において、会長公益委員古山宏、公益委員瀬元美知男、同新堂幸司、同加藤眞、同吉野恭太郎、同矢吹輝夫、同高田章、同石原寛、同宮本安美、同江本嘉幸、同佐野陽子、同渡辺章、同小早川光郎出席し、合議のうえ、次のとおり命令する。

主文

一 被申立人エスエムシー株式会社は、次のような方法により、申立人関東化学・印刷・一般労働組合エスエムシー支部の組織運営に支配介入してはならない。

① 部長、課長、課長代理、係長、主任または事務課長らの言動を通じて、申立人組合の結成を非難し、同組合を否認あるいは誹謗し、従業員の同組合への加入を抑止し、同組合からの脱退を勧奨し、または同組合員の電話の受信を妨害すること。

② 申立人組合員に対し、仕事を外しまたは配転するなどの方法により同組合からの脱退を強要すること。

③ 申立人組合の行うアンケート調査を妨害すること。

二 被申立人会社は、本命令書受領の日から一週間以内に、五五センチメートル×八〇センチメートル(新聞紙二頁大)の白紙に、下記文書を楷書で明瞭に墨書して、被申立人会社の本社正面玄関および草加第一、第二、第三工場の従業員の見やすい場所に一〇日間掲示しなければならない。

平成 年 月 日

関東化学・印刷・一般労働組合エスエムシー支部

支部長 飯島和弘殿

エスエムシー株式会社

代表取締役 高田芳行

当社が行った以下の行為は、不当労働行為であると東京都地方労働委員会において認定されました。今後このような行為を繰り返さないよう留意します。

① 島崎購買部長が平成二年六月一二日に購買部の夕礼において組合結成を暗に非難するなどした発言、水口事務課主任らが同月一八日に貴組合員であった堀江恵子氏および同阿出川久美氏に対して脱退を勧奨した発言、高橋製造一部六課係長が同月二〇日に貴組合飯島支部長に対して組合を否認するなどした発言、佐々木事務課長および竹内事務課課長代理が同月二六日に事務課の朝礼において、杉山購買管理課長が同日に購買部の朝礼において、中村製造一部二課長が同日に貴組合辻本執行委員に対しておよび高橋製造一部六課係長が同日に製造一部六課のパート社員らに対してそれぞれ組合を否認するなどした発言、加藤生産統括部長が同年一一月二日に貴組合長沢書記長に対して脱退を勧奨するなどした発言ならびに金子製造一部六課長が同年六月二九日に貴組合員水上千春氏の電話の受信を妨害したこと。

② 同年六月二五日ごろ貴組合員であったことを理由として堀江恵子氏および阿出川久美氏の仕事を外し、また、同年一一月中旬に阿出川久美氏に配転を命じたこと。

③ 同年一〇月二四日に貴組合が行ったアンケート調査を妨害したこと。

(注:年月日は文書を掲示した日を記載すること。)

三 被申立人会社は、前項を履行したときは、すみやかに当委員会に文書で報告しなければならない。

四 その余の申立てを棄却する。

理由

第一 認定した事実と判断

一 当事者

(1) 被申立人エスエムシー株式会社(以下「会社」という。)は、肩書地に本社を、埼玉県草加市など一四か所に工場を置き、空気圧機器、自動機器等の製造、販売を主たる業とする会社であり、従業員数は約五〇〇〇名である。

(2) 申立人関東化学・印刷・一般労働組合エスエムシー支部(以下「支部」という。)は、平成二年五月二八日に、草加市内にある会社の草加第一、第二、第三工場従業員により、申立外関東化学・印刷・一般労働組合(以下「関東労組」といい、支部と合わせて「組合」ともいう。)の支部として結成された労働組合で、本件結審時の組合員数は約七〇名である。

二 審査の併合および分離について

支部は、平成二年一二月一日、会社が団体交渉拒否および支配介入を行ったとして、①一〇月一九日付の団体交渉申入れに対する団交応諾、②支部および支部組合員に対し誹謗・報復・威嚇する言論、嫌がらせ、支部からの脱退勧奨の排除、③支部のアンケート調査等の妨害の排除などの不当労働行為救済申立てを行った(都労委平成二年不第六四号事件)。また、関東労組も、同月二六日、上記①について不当労働行為救済申立てを行った(都労委平成二年不第六八号事件)。

当委員会は、上記二件を併合したうえ、①に関する部分の審査の分離を決定し、三年九月一一日、分離した部分についての全部救済命令を発した(三年九月二〇日、会社が再審査を申し立て、現在中央労働委員会に係属中)。

そして、当委員会は、ここに上記②、③の申立てについての審問を終結し、命令を発するものである。

三 支部の申立資格等について

(1) 認定した事実

支部は、関東労組の下部組織ではあるが、独自の規約を持ち、独自の組織を備えている。そして、関東労組の指導の下に、後記のとおり、ビラの配布やアンケート調査などの支部独自の活動を行っている。

また、支部は、財政面でも、結成当初は執行委員が月額三〇〇〇円ずつを負担し、平成二年一二月ごろからは、正社員月額二〇〇〇円、パート社員月額一〇〇〇円を徴収しており、規約に定める「基本給月額の二パーセントプラス本部費」とは異なるが、こうした組合費収入をもとにして関東労組とは独立の財政を営んでいるものと認められる。

(2) 却下を求める被申立人の主張

支部は組織上も財政上も関東労組から独立しておらず、独立の組織体ではないから、労組法に定める労働組合には該当せず、不当労働行為救済申立ての資格を有しない。

(3) 当委員会の判断

前記認定のとおり、支部は関東労組の下部組織ではあるが、独自の規約を持ち、独自の組織を備えているほか、関東労組とは独立した財政を営んでいると認められるのであるから、支部が独立した労働組合でないとの被申立人の主張は採用できない。

なお、被申立人は、組合の申立資格の有無について本案審査前に決定しないことは違法であるとも主張するが、資格審査は命令が発せられる時点までに決定されていれば足りるのであるから、この点に関する被申立人の主張も採用できない。

四 支部の結成通知とこれに対する会社部長らの言動ならびに支部脱退届けの送付について

(1) 認定した事実

① 支部は、平成二年六月八日に会社に対し結成通知をするとともに、同日、関東労組と連名で、六月一三日を開催希望日として、平成二年度夏期一時金要求など九項目を議題とする団体交渉を申し入れた。

これに対し、同日、会社は、株主総会や決算を控え日程の調整が困難であるため話合いは七月三日まで延期してほしいこと、組合についての説明を受け、それでお互いの理解を深めてから団体交渉を行いたいことなどを述べた。

そして、この後組合は何度か団体交渉の開催を要求したが、団体交渉は行われないまま推移し、結局この団体交渉申入れに対しては、事務折衝が六月二九日、七月三日(前記のとおり、会社は、話合いは七月三日まで延期してほしい旨述べたのであるが、結局この日も会社の希望によって団体交渉ではなく事務折衝が行われた。)、同月二五日および八月二二日の計四回行われたに止まった。

団体交渉ではなく事務折衝を行った理由として、会社は、支部組合員の人数が会社従業員数に比べてごく少数であったので、参考として意見を聞きおく程度に止めようとしたためであるとしている。

なお、この事務折衝の会社側のメンバーは、加藤生産統括部長、広沢製造第一部長、佐々木事務課長および竹内事務課課長代理の四名であった。

② 六月一二日、島崎購買部長は、購買部の夕礼において支部の結成について言及し、「エスエムシーに労使という言葉はない。組合に入るのも入らないのも自由だが、入らなかったからといって不利になることはない。組合に入っている人に特別に何もしない。それは労働基準法で決められている。過去三〇年間団体交渉をしなければならないほどの問題はなかった。個人でも話し合える会社だ。会社が若い人を集めて作ったという話も聞くが一切そのようなことはない。入るなとか入らない方がいいとかは言えないが、自分で良く考えて入った方がいい。」などと述べた。

③ 六月一九日、製造一部六課の高橋係長は、職場内で従業員に組合加入の有無を質して回った。これについて石原支部執行委員が同日夜に抗議したところ、同係長は「会社側はまだ組合を認めていないから不当労働行為にはならない。」と答えた。

また、翌二〇日、同係長は飯島支部長に対し、「組合のことを聞いているのは自分の考えでやっている。あんたたちだって昼に活動しているではないか。不当労働行為とわかってやっている。部長たちがどう考えていようと自分には関係がない。会社に認めてもらってないから組合でないんだ。組合を作ったからにはそれなりの覚悟はできているだろうな。」などと言った。

ちなみに、このころ、草加第一工場、第二工場および第三工場においても、会社係長、班長らが組合加入の有無を従業員に質してまわっていた。

④ この後の六月下旬ごろから連日のように社内メールで脱退届が飯島支部長に送付されるようになり、六月中旬には約三一〇名に達した支部組合員数は本件申立時(平成二年一二月)には約一〇〇名に減少した。

こうした脱退届の中には、同一の文書のコピーに署名したとみられるものが約三〇枚、会社用箋にワープロで打たれた同一文面のものが約二〇枚含まれていた。

(2) 当事者の主張

① 申立人の主張

ア 六月一二日の島崎購買部長の発言は組合を誹謗するものであり、同月二〇日の高橋製造一部六課係長の発言は組合活動故の報復である。

これらは、いずれも職制の地位を利用して会社のためになした発言であって、会社の不当労働行為である。

イ 会社が、会社用箋にワープロで打たれた脱退届を作成配布し、組合員の脱退を勧奨したことは組合の組織運営に対する支配介入である。

② 被申立人の主張

ア 六月一二日の島崎購買部長の発言は、組合員を有利にも不利にも扱わないと当然のことを述べたものであり、同月二〇日の高橋製造一部六課係長の発言は、飯島支部長らが「今にユニオンショップ協定ができたらお前なんかクビにしてやる。」などと言った言葉に反発して言ったものである。

したがって、これらの発言は、いずれも組合ないし組合員に対する誹謗や報復には該当しない。

また、会社は、職制らに対してこうした言動を命じたことはなく、各職制らは、もっぱら業務秩序維持のためと部下の将来のためによかれとの観点から、各自の判断と責任において行動したものである。

イ 会社は、脱退届を作成したりこれを配布したりしたことはない。

(3) 当委員会の判断

① 六月一二日の島崎購買部長の発言について

ア 島崎購買部長の発言は、部長職にある者の夕礼という会社の公式な会合における発言であるから、個人的な意見の表明とは認められない。

イ 同部長の発言は、「エスエムシーに労使という言葉はない。」「組合に入っている人に特別に何もしない。」「過去三〇年間団体交渉をしなければならないほどの問題はなかった。個人でも話し合える会社だ。」「入るなとか入らない方がいいとかは言えないが、自分で良く考えて入った方がいい。」などというものであり、これを全体としてみると、あたかも組合が不満分子の集まりであるかのような表現を用いて組合加入の再考を促したものであり、組合の結成を暗に非難し、従業員の組合加入を抑止する内容の発言として組合の組織運営に対する支配介入に該当する。

② 六月二〇日の高橋製造一部六課係長の発言について

ア 高橋製造一部六課係長はいわゆる管理職ではないし、同係長は「組合のことを聞いているのは自分の考えでやっている。」とも発言してはいる。しかしながら、会社係長、班長らが同じような時期に従業員の組合加入の有無を調査してまわったことは特段の事情のない限り会社の意向によるものとみざるを得ず、同係長が職場内の従業員の組合加入の有無を調査したこともその一環の行動と認められるのであって、同人の上記「自分の考えでやっている」との発言は自己の行動に対する一片の弁明にすぎないものとみるのが相当である。

イ 同係長の発言は、「会社に認めてもらってないから組合でないんだ。組合を作ったからにはそれなりの覚悟はできているのだろうな。」などとして組合を否認し、組合員であることを理由とする不利益取扱いを示唆する趣旨のものである。この発言について会社は、飯島支部長らの言葉に反発したものであると主張しているが、これを認めるに足る疎明はない。とすれば、同係長の発言は、組合の組織運営に対する支配介入に該当するというべきである。

③ 脱退届の送付について

前記認定のとおり、会社係長、班長らが従業員の組合加入の有無を調べ始めた時期に、連日のように社内メールで脱退届が飯島支部長宛てに送られてくるようになり、こうした脱退届の中には、同一の文書のコピーに署名したとみられるものが約三〇枚、会社用箋にワープロで打たれた同一文面のものが約二〇枚含まれていた事実が認められるのであり、脱退届の作成に会社が関与していたのではないかとの疑いがないわけではない。

しかしながら、これらの事実のみをもって、会社が脱退届の作成、配布に積極的に関与したとまでみることは困難であるのみならず、会社用箋や社内メールの私用を知りながら会社がこれを放置していたとみるに足るだけの疎明もないのであるから、この点についての会社の支配介入を肯認することはできない。

五 支部のビラ配布とそれに対する会社課長らの発言について

(1) 認定した事実

① 支部は、前記六月八日の団体交渉申入れの経過を踏まえ、七月三日には団体交渉が開催されるものとの希望的な予測をもって、六月二〇日ごろ、「会社が組合を認めて七月三日に団体交渉が開催される。会社管理職らの言動が不当労働行為にあたると抗議した。釜石新工場が一〇月に稼働し大移動が予定されている。」などと記載したビラを配布した。

② このビラの内容に関連して、六月二六日、会社課長らが次のように発言した。

ア 佐々木事務課長は、事務課の朝礼において「組合というもののなかでニュースが配られたが、あくまでも私個人の意見だが団体交渉は行わないだろう。ニュースには釜石への大量の移動があるようなことが書かれていたが、『大量』という表現はおかしい。」などと言った。

イ 竹内事務課課長代理は、同じく事務課の朝礼において「今回の組合の行動は、私の経験からいっても紳士的ではない。組合を作ったのならその時点で委員長の紹介があってもいいはずなのに、全然なかった。申出がないのにビラを配ったり、勧誘をしたりしたことは他人の家に土足で上がり込んだようなものだ。入る入らないは自由だがもっと紳士的にやるべきだろうが、まあできないからこういう方法をとったのだろう。事務課の中でも入っている人がいるようだが事務課としての立場を考えてやるべきだろう。昼休みに事務課の人も勧誘に歩いているようだが、私自身の考えとしては、その行為が違反行為でないかもう一度考えてほしい。」と言った。

ウ 杉山購買管理課長は、購買部の朝礼において「組合のことについて話があります。会社の見解において七月三日の団体交渉は予定していません。ビラの中で釜石に大移動があると書いてあるが大移動はない。」と言った。

エ 中村製造一部二課長は、午前九時二〇分ごろ、第二工場倉庫前において、支部の辻本執行委員に対し、「七月三日の団体交渉は会社側としては約束していない。製造一部二課に関しては、課長以上の者が組合に入るなと言ったことはない。釜石に大移動があると書いてあるがそのようなことはない。今回のビラで第二工場の内部が混乱している。」と言った。

オ 製造一部六課の高橋係長は、午前一〇時ごろ、同課の二〇名ほどのパート社員の前で、「七月三日に行われることになっている団体交渉はただの話合いで会社側は組合を認めていない。組合加入者の氏名は一切公表しないと言っているが、組合費の天引きのときにわかってしまう。組合に入っているかいないかを聞くことは不当労働行為ではない。」と言った。

③ 六月二七日、事務課の古川課員は、生産技術一課の課員ら六名に対し、「組合員が半数以上になると強制的に組合に入ることになる。もし組合で運動会をした時、運動会に行くことを断ると組合をやめろと言われ、すなわち会社をやめなければいけなくなるかもしれない。時期が悪い。組合費も五〇〇〇円ぐらいとられる。」と言った。

(2) 当事者の主張

① 申立人の主張

ア 六月二六日の佐々木事務課長、竹内事務課課長代理、杉山購買管理課長、中村製造一部二課長および高橋製造一部六課係長の発言はいずれも組合を誹謗するものであり、同月二七日の古川事務課員の発言は組合活動に対する威迫である。

イ これらは、いずれも職制の地位を利用するなどして会社のためになした言動であって、会社の不当労働行為である。

② 被申立人の主張

ア 六月二六日の佐々木事務課長、杉山購買管理課長および中村製造一部二課長の発言は、会社が団体交渉の名称を使用しないことを条件として事務折衝を約束していたのでそのことを述べたまでであり、同日の竹内事務課課長代理の発言は、同人の経験に照らして感じたままを述べたにすぎず、同日の高橋製造一部六課係長の発言は、支部に対する会社の所信をありのままに述べたものである。また、古川事務課員は申立人主張のような発言はしていない。

したがって、これらの言動は、いずれも組合ないし組合員に対する誹謗や威迫には該当しない。

イ また、会社は、職制らに対してこうした言動を命じたことはなく、各職制らは、もっぱら業務秩序維持のためと部下の将来のためによかれとの観点から、各自の判断と責任において行動したものである。

(3) 当委員会の判断

① 佐々木事務課長、竹内事務課課長代理、杉山購買管理課長、中村製造一部二課長および高橋製造一部六課係長の上記各発言は、いずれも日を同じくして六月二六日の朝礼時ないしこれに近接する時間帯に一斉になされたものであり、これを内容的にみてももっぱら同月二〇日ごろ配布された支部のビラの記事が事実に反するとして組合を誹謗することに集約されているとみられるから、これらの発言は上記課長、課長代理および係長らの職制が会社の意を体して相はからってなした一連の発言であると認めるにやぶさかでない。

ところで、上記各発言のうち高橋係長が「七月三日に行われることになっている団体交渉はただの話合いで会社側は組合を認めていない。」と発言していること、七月三日の団体交渉の開催を否定する佐々木事務課長の発言の後に、竹内課長代理が支部の結成を非難し、事務課員の組合加入を批判する発言をしていること、前記認定(第一、四(1)①)のとおり、会社は、支部組合員の人数が会社従業員数に比べてごく少数であったため、参考として意見を聞きおく程度に止めようと考えて団体交渉ではなく事務折衝を行ったものであると言っていることなどを勘案すれば、上記職制らの各発言は組合を否認少なくとも軽視し、交渉相手として認めないとする会社の意を体して、そのことを従業員に印象づけることによって従業員の組合加入を抑止しようとする意図のもとになされた一連の発言と判断せざるを得ない。とすれば、これらの発言は、組合の組織運営に対する支配介入に該当するというべきである。

② 会社は六月二七日の古川事務課員の発言の存在を否定しているが、本件の疎明によってその存在は認められる。しかしながら、同人は管理・監督職ではなく、しかも本件の場合他課の従業員に対する発言でもあって、会社との間の意思の連絡をうかがわせるに足る疎明はない。とすれば、同人の発言について会社の不当労働行為責任を云々するに由ない。

六 長沢の始末書提出および大串の損失報告書提出について

(1) 認定した事実

① 六月中旬ごろ、製造一部六課の作業場所の一つであるクリーンルーム内に保管されていたブロンズ製品が変色するという事故が起きた。これは、ブロンズ製品の変色を防ぐために必要な空調機の電源が切れていたためであるが、事故発見の日から休日を挟んで二日前に、他課の者がクリーンルームの使用許可を受けて同室内で作業した後、同課の長沢久晴(支部書記長)にクリーンルームの戸締りを依頼し、同人が戸締りをしたということがあった。

クリーンルームについては、室内の製品の保存状況により空調機作動の要否が異なるため、作業終了後の空調機の電源は実際に作業をした者が操作するのが通常で、戸締りの際に空調機の電源を確認することは特にルール化されてはいなかった。しかしながら、今回の事故では電源を切った者が分からずじまいであったため、同課の金子課長は、通常、クリーンルームで作業を行う班の班長であるとの理由で長沢に始末書の提出を命じた。

そして、長沢は、損失金額が四七万円余であったこと、事故原因は空調機の電源の確認を怠って戸締りをしたためであること、対策として「電源を切るな」のカードを作り、戸締りの際の確認も徹底することなどを記した始末書を六月一二日に提出した。

② 六月末ごろ、製造一部六課で接着剤の混合(主剤と硬化剤を混合して接着剤を作る作業)を担当していた大串繁(支部会計)は、接着剤の主剤が硬化していたため通常の混合割合では接着剤として機能しないと判断し、主剤と硬化剤の混合割合を変えて接着剤を作成した。しかしながら、翌日に、この接着剤を使用した製品の接着箇所がはがれ、約三〇〇個の不良品が発生するという事故が起きた。

接着剤の混合割合は、主剤二に対して硬化剤一の比率で混合することになってはいたが、当日の主剤の状態では、この割合で混合しても接着剤として機能しないことを大串が確認して混合割合を変えたものであり、この経緯については、上司である同課の高橋係長も現認していたが、特に指示や注意を与えたりすることはなかった。

そして、大串は、高橋係長の指示で、損失が一二時間分(正社員三時間分、パート社員九時間分)の労働量に相当すること、原因は接着剤の混合割合を変えたためであること、今後の対策として接着剤の混合割合を守ることなどを記した損失報告書を七月三日に提出した。この報告書は、高橋係長の指示で二度書き直し、最終的には高橋係長の示したモデルのとおりに記載したものであった。

(2) 当事者の主張

① 申立人の主張

長沢支部書記長および大串支部会計に対し、無理に始末書や損失報告書を書かせたことはいずれも組合員であるが故の嫌がらせである。

② 被申立人の主張

長沢支部書記長および大串支部会計に文書の提出を命じたのは、同人らのミスに起因する事故の事後処理のためのものであるから当然の措置である。

(3) 当委員会の判断

① 長沢については、戸締りの際の空調機の電源確認がルール化されているわけでもなく、長沢個人の落度とはいえない事故について、クリーンルームで作業をする者の班長であったという理由で始末書の提出を命じられたものであり、大串については、係長が現認しておりながら特に指示や注意を与えなかった作業について損失報告書の提出を命じられたものであって、両名の個人責任を問うことは酷な感があることも否めない。

② しかしながら、ア、いずれの事故についても損害が発生しており会社としてその対策を講ずることは特に不自然とはみられないこと、イ、長沢、大串いずれについても、文書の記載内容は事故の経過報告とその対策を主眼とするものとみられ、内容的に同人らに反省を促すとか同人らを咎め立てすることを主眼としたものとはみられないこと、ウ、始末書や損失報告書の提出を命じたという今回の措置が同種の事案と比べて特別の措置であったとの疎明もないこと等を勘案すれば、本件始末書ないし損失報告書の提出命令をもって、両人の組合所属ないしは組合活動故の嫌がらせであるとまでみることは困難であると言わざるを得ない。

七 阿出川、堀江に対する水口主任らの発言と「仕事外し」および阿出川に対する配転命令について

(1) 認定した事実

① 六月中旬、佐々木事務課長は、事務課の水口主任、古川課員、織田課員らに対して同課の堀江恵子(当時支部組合員)と阿出川久美(当時支部執行委員)を「機密事項」の担当から外すよう指示した。ここで佐々木課長のいう「機密事項」とは、後記のとおり、堀江については交通費以外の伝票の処理ならびに伝票と現金との突合わせの業務を、阿出川についてはパート社員らの給与電算処理のためのデータ整理の業務を指しているものとみられる。

② 六月一八日午後三時ごろから、会社の応接室において、水口主任と古川課員は堀江恵子に対し、「あなたが組合員であるために見せられない書類や頼めない仕事ができてやりづらくなる。事務課としての立場をとるか、組合員としての立場をとるか、それとも事務課・組合員としての立場をとるか。組合活動をしていたということで結婚できなくなるおそれもあるし、会社を退職しても再就職も難しい。」などと言った。

また、同日午後四時ごろから、会社の応接室において、水口主任、古川課員および織田課員は阿出川久美に対し、「この話合いは私たちの一存でやっている。組合なんかやっていたら結婚もできず、孫の代まで迷惑がかかる。警察にもチェックされてしまう。事務課は秘密事項が多いから、組合の仕事を続ければ今までのように仕事を与えられない。今は組合を作る時期ではない。組合、組合・事務課、事務課のどれをとるのか。」などと言った。

③ 六月二五日から堀江は、水口主任の指示により、従来処理していた伝票のうち、交通費関係のみを処理するよう指示されるとともに、伝票金額の合計や伝票と現金との突合わせの業務から外された。

また、同じころ、阿出川は、パート社員らの給与電算処理のためのデータ整理の業務から外され、雑用をやらされるようになった。

④ 阿出川は、一一月中旬、事務課から草加第三工場製造部への配転を命じられた。同人は入社以来七年間勤務した事務課に愛着があり、また、このような異動のされ方はプライドが許さないとして、一一月一五日に会社に退職の意思を伝えた。この際、事務課の竹内課長代理は阿出川に対し「組合を抜けて事務課に残る気はないか」と尋ねたが、同人はこれを拒否して一一月一七日に退職届を会社に提出し、一二月一〇日に退職した。同時に組合も脱退した。

なお、堀江も、阿出川の退職後の翌年一月ごろ組合を脱退した。

(2) 当事者の主張

① 申立人の主張

六月一八日の水口事務課主任らの発言は組合活動に対する報復、威迫であり、阿出川支部執行委員および堀江支部組合員の仕事を外したこと、阿出川に対し草加第三工場製造部への配転を命じたことはいずれも組合員であるが故の嫌がらせである。

② 被申立人の主張

堀江および阿出川の仕事を外したことならびに阿出川に配転を命じたことはいずれも、組合員には機密の漏洩防止のために機密にわたる業務がさせられないことから生じた結果である。

また、六月一八日の水口事務課主任らの発言は、同主任らが個人の資格で日頃感じていたことを述べたにすぎないのであるが、そもそも機密にたずさわる者に対しては脱退を説得しても違法性が阻却されると解すべきである。

(3) 当委員会の判断

会社は、佐々木事務課長より水口主任らを介し、堀江、阿出川に対して「あなたが組合員であるために見せられない書類や頼めない仕事ができてやりづらくなる」「組合の仕事を続ければ今までのように仕事を与えられない」「事務課としての立場をとるか、組合員としての立場をとるか、それとも事務課・組合員としての立場をとるか。」「組合活動をしていたということで結婚できなくなるおそれもあるし、会社を退職しても再就職も難しい。」「組合なんかやっていたら結婚もできず、孫の代まで迷惑がかかる。警察にもチェックされてしまう。」などと組合からの脱退を迫り、堀江および阿出川が組合を脱退しないとみるや、前認定のように両名の仕事の一部を外し、さらに阿出川に対しては草加第三工場製造部への配転を命じたものと認められる。そして結局両名は組合を脱退するに至ったのであるが、会社の行ったこれら一連の行為は、堀江および阿出川に対する明白な脱退強要であり、組合の組織運営に対する支配介入に当たる。

会社は、水口主任らの発言は同人らが個人の資格でなしたものであると主張するが、上記行為は上記のとおり佐々木事務課長に始まり水口主任らに及ぶ会社の意図による一連の行為としてなされたものとみざるを得ないから、会社の主張は採用できない。

また、会社は、これらの措置が機密漏洩防止のためであるとも主張するが、堀江および阿出川が労組法にいう会社の利益代表者に当たらないことは明らかであるからこの点は問題にならない。もっとも、同人らの職位が組合員の立場と両立し得ないというのであれば、組合との協議などにより組合員の範囲を確定すれば足りるところ、会社は一切そのようなこともせず前記一連の行為を行ったことからすると、会社の真の意図は両名を組合から脱退させることにあったとみざるを得ない。

八 組合員の電話受信の妨害について

(1) 認定した事実

六月二八日、製造一部六課の水上千春(支部組合員)がパート社員あての私用電話を取り次ごうとしたところ、同課の金子課長は、水上に対し、「私用電話は取り次ぐなと言ったろう。どうしても取り次がなければならないなら、自分の許可をとれ。自分がいなければ高橋係長、係長がいなければSの許可を取れ。」と言った。これは、関東労組の岸本副書記長からの組合用務の電話を同課長がたまたま取り、私用電話は取り次げないとして取次ぎを拒否した直後のことであった。

製造一部六課では、業務の担当ごとに、一番と二番の電話を支部組合員である水上と小野田が、三番と四番の電話を非組合員であるI係長とA課員が担当していたが、金子課長は、翌二九日には、I係長とA課員に対し、水上の担当となっている電話機の電話も含めてすべて出るよう指示した。

会社では、これまでは、短時間の私用電話については黙認されてきており、組合用務の電話がその長さや頻度において業務に支障を来すほどのものであったとの事実は認められない。

(2) 当事者の主張

① 申立人の主張

水上の電話受信を妨害した金子課長の措置は組合活動故の報復である。

② 被申立人の主張

金子課長の措置は、支部組合員は製造一部六課所属の者が最も多いので、そのために頻度になりがちな組合用務の私用電話をさせないためにとった措置である。会社はもともと私用電話は禁止しており、支部はこの措置によって何らの不利益も受けていない。

(3) 当委員会の判断

組合用務の電話であっても、会社にとって私用電話である限りこれを許容すべき義務が当然に存するわけでないことは言うまでもない。しかしながら、会社は、従来短時間の私用電話は黙認していたと認められるのであり、また、これまで組合用務の電話により会社の業務に支障を来すようなことがあったとの事実も認められないのであるから、もっぱら組合用務の私用電話を禁ずるために、水上の担当電話の受信を妨害するような措置を講ずることは行き過ぎであり、組合員であるが故の嫌がらせとして、組合の組織運営に対する支配介入と認められる。

九 会社管理職によるアンケート用紙の回収および加藤部長の発言について

(1) 認定した事実

① 一〇月一九日、関東労組および支部は、会社に対し、ア、平成二年年末一時金(支給額、配分、支給期日)に関する件、イ、草加第二工場移転に関する件、を議題とする団体交渉を、一一月一日を開催希望日として申し入れた。

これに対して会社は、日程の調整がつかないとの理由で期日の延期を申し入れた。

ちなみに、団体交渉の議題となっている草加第二工場移転については、八月二二日に会社と組合との間で行われた事務折衝において、会社が「九月から一部が移動するが、現在シリンダー関係の生産が間に合わないため、在庫作りが思うようにできない。受注対応でいっぱいである。工場移転もいつになるか見通しがつかない。移動する際の待遇は考えている。」と発言している。

② 支部は、上記団体交渉の資料とするため、一〇月二四日始業前に、草加第二工場正門前で同工場の従業員に対し、筑波移転の賛否や遠距離手当、寮の設備等に対する希望などを問うアンケート用紙を配布した。これに対し、中村製造一部二課長は、このアンケート用紙を回収し、同日回収したアンケート用紙を佐々木事務課長が長沢支部書記長に返却した。

③ 一〇月三〇日、飯島支部長および長沢支部書記長が、佐々木課長に団体交渉の日程について質したところ、同課長は「上の者に聞いて後で連絡する。」と答えた。

そして、一一月一日、同課長は「団体交渉は行わない。『今後事務折衝をやる場合、佐々木君、君がやれば』と加藤部長に言われた。」旨回答した。

翌二日、加藤生産統括部長は、帰り際の長沢支部書記長と会った時に、「佐々木から聞いたか。組合なんかやめろ。あんな程度の低いやつらとはつきあえない。」と言った。

そして、結局、上記議題について団体交渉あるいは事務折衝は行われなかった。

(2) 当事者の主張

① 申立人の主張

ア 一〇月二四日に組合が行ったアンケートの用紙を会社が回収したことは、正当な組合活動の妨害である。

イ 一一月二日の加藤生産統括部長の発言は組合活動に対する威迫である。

② 被申立人の主張

ア 一〇月二四日に組合が行ったアンケートの用紙を会社が回収したのは、ビラ配布については事前に会社に通知するとの合意がなされていたところ、このアンケート配布は何の事前通知もなく行われたものであり、その内容も事実に反する草加第二工場移転に関するもので、従業員を不安に駆り立てると判断したので回収したものであって、不当労働行為にはあたらない。

イ 一一月二日の加藤生産統括部長の発言は冗談で言ったものであって、組合ないし組合員に対する威迫には該当しない。

また、会社は、職制らに対してこうした言動を命じたことはなく、加藤部長は、もっぱら業務秩序維持のためと部下の将来のためによかれとの観点から、個人の判断と責任において行動したものである。

(3) 当委員会の判断

① 会社管理職によるアンケートの回収について

ア 組合の行ったアンケート調査は、就業時間外に社外で行ったものであって、その内容も一〇月一九日申入れの団交議題の資料となるべきものなのであるから正当な組合活動と認められる。

イ 会社は、ビラ配布について事前通知の合意がなされていたと主張するが、それを認めるに足る疎明はなく、また、会社は、アンケートの内容である草加第二工場移転が事実に反するものであるとも主張するが、八月二二日に会社と組合との間で行われた事務折衝において、会社自身が「九月から一部が移動するが、現在シリンダー関係の生産が間に合わないため、在庫作りが思うようにできない。受注対応でいっぱいである。工場移転もいつになるか見通しがつかない。移動する際の待遇は考えている。」と発言しているのであるから、工場移転が全く事実に反するものであるとは認められない。

ウ したがって、会社管理職によるアンケートの回収は、正当な組合活動を妨害する行為として、組合の組織運営に対する支配介入と認められる。

② 一一月二日の加藤生産統括部長の発言について

ア 加藤生産統括部長の発言は、部長職にあり、事務折衝のメンバーである者の発言であるから単なる個人的な意見の表明とは認められないし、発言の時期や内容を勘案すれば、冗談のつもりであったとの被申立人の主張も採用できない。

イ 同部長の発言は、「組合なんかやめろ」「あんな程度の低いやつら」など組合を誹謗し、組合からの脱退を勧奨する趣旨の発言であるから、組合の組織運営に対する支配介入と認められる。

第二 法律上の根拠

以上の次第であるから、六月一二日の島崎購買部長の発言、同月一八日の水口事務課主任らの発言、同月二〇日および二六日の高橋製造一部六課係長の発言、同月二六日の佐々木事務課長、竹内事務課課長代理、杉山購買管理課長および中村製造一部二課長の発言ならびに一一月二日の加藤生産統括部長の発言、堀江および阿出川の仕事を外したこと、阿出川に配転を命じたこと、組合員の電話の受信を妨害したことならびに一〇月二四日に支部が行ったアンケート調査を妨害したことは、いずれも労働組合法第七条第三号に該当するが、六月二七日の古川事務課員の発言、会社の組合脱退届の作成および飯島支部長への送付、長沢の始末書提出および大串の損失報告書提出はいずれも同法同条に該当しない。

よって、労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条を適用して主文のとおり命令する。

平成五年四月二〇日

東京都地方労働委員会

会長 古山宏

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